『イシューからはじめよ――知的生産の「シンプルな本質」』の著者、安宅和人氏の新しい著書であるこちらの本を読んでみました。
シン・ニホン AI×データ時代における日本の再生と人材育成 (NewsPicksパブリッシング)
- 作者:安宅和人
- 発売日: 2020/02/20
- メディア: 単行本
本書で書かれていることの、大まかな内容はこちらの動画が公開されています。
書店が開いていなくて立ち読みできなくて本書を買うかどうかを悩んでいる方々は、こちらの動画を見てみてはいかがでしょうか。
もちろん本書はこの動画で語られている内容よりも多くの内容について、客観的事実に基づいて整理されて書かれています。 動画を見てもっと詳しく勉強したいという方は本書を購入すると良いかと思います。
以下はこちらの本を読んで考えたことのメモです。
現状分析と課題認識
日本の状況はどうかという観点で考えると、特定の業界に特化した話でもないので、評価の軸としてはGDPとするのが妥当ではないでしょうか?
グラフから下記のようなことが読み取れるかと思います。
- アメリカ、中国からは大きく水を空けられている
- その他の主要国とは、徐々にではあるが差を詰められている
はっきり言って日本は諸外国と比べるとあまりうまく行っていない様に見受けられます。 このまま行けば近い将来、海外の企業が日本市場に進出し、日本の既存産業が海外の新興勢力との競争に破れてしまいます。
では、次に課題について考えます。 ここで言う課題は
問題 = 理想 - 現実
とします。 この理想と現実の間にある現象を予想することで、これから必要になる能力や成長戦略について考えます。
課題の洗い出し
理想的には日本の各種産業が元気に活動し、国際競争力を強めていくことだと考えます。 一方、現実には先に示した通り、GDPは諸外国に比べ伸び悩んでいます。 このギャップにどんな課題があるかを考えます。 これを考えるために、労働人口と生産性の問題を取り上げます。
労働人口
生産について
生産 = 労働者×生産性
と考えた際に、労働人口は一つのポイントになります。 実際、年々労働人口は減少傾向にあり、今後も減少していくことがわかっています。
生産性
では、生産性についても考えてみます。労働生産性の国際比較2018によれば、日本の労働生産性は主要先進7カ国で最下位を取り続けています。
要するに、めちゃくちゃ効率が悪い働き方をしているということです。 生産性を
と考えると、効率の改善には
- 付加価値を上げる
- 投下する労働力を下げる
の2つの方法があります。
どちらもグラデーションで行う必要があるとは思いますが、より重要になるのは付加価値を上げるという点です。 いかにして高付加価値な生産を行うか、そういった製品・サービスを発明していくという点は、近年の日本があまり得意としてこなかった領域であり、これからもつきまとっていく問題となるかと思います。
課題は何か
このまま行くと、
- 労働人口はどんどん減っていく
- 生産性は主要国から遅れをとっている
といった状況です。実際、これらがGDP、ひいては競争力に大きく影響を与えているかと思います。
このうち、労働人口については突然増加できるものでもありませんし、それには国の法律・制度が絡んでくるものもありますので(特に移民政策)すぐに対応できるものではありません。
そのため、今の日本人労働者にとっては「生産性を向上できていない」という点が解くべき課題であると考えられます。
今後重要となるスキルはなにか
上記で定義した課題を解決するために、現在ではAIが期待されているわけです。 さらに細分化すると、
- AIを使ってより付加価値の高い製品・サービスを生産する
- AIを使って投下する労働力を削減する
というのが、期待されている内容になるかと思います。 現状、日本企業がAIといって行われているのは「2. AIを使って投下する労働力を削減する」の方だと思います。 実際、個々の機械学習技術は、人間を代替することを目標として研究開発されていることが多く、その用途になっていくのも当然です。
一方、アメリカや中国ではAIを使って付加価値を高める方にも適用できている様に見受けられます。 実際、近年のユニコーン企業はAI技術を使っている場合が多く、それらはAIを使いながらも、これまでになかった新しいサービスを開発しているかと思います。
そんな状況が今後日本でも進んでいったとして、その時に人間に求められるスキルについて考えます。
AIにできないこと
AIと人間の棲み分け、人間の役割を考える上で、AIにできないことを整理することは有効かと思います。 本書では次のように書かれています。
情報処理のほんの一部しか実現できていない上、意味理解を行う「知覚」ができず、「意思」がないという点で、AIと我々が持っている知性は本質的に異なる。 シン・ニホン AI×データ時代における日本の再生と人材育成
つまり、AIは人間を代替するものにはまだまだ程遠く、意味の理解及び意思を持った判断は人間が行う必要があるということがわかります。
AIと人間の棲み分け
基本的にはAIにできないことを人間がうまく役割分担して、分担していくんだと思います。 なので、今の仕事が取られても、人間にしかできないことも残ります。
生産性を向上させるという課題のためにAIを活用しつつも、人間がその出力結果を理解して意思決定していく必要性は残りそうです。AIに期待されている事柄について考えてみると、「2. AIを使って投下する労働力を削減する」は人間の高度な理解・判断の能力を除けば、AIが代替していくことが可能でしょう。 一方、「1. AIを使ってより付加価値の高い製品・サービスを生産する」ではAIを前提において、製品・サービスを作るという高度な判断が入るため、ここのデザインについては人間の大きな役割となるかと思います。
この辺りまでは、世間一般で言われていることですね。 結局のところ、人間らしい活動は今の所コンピュータに代替できそうにないので、人間としては「より人間らしい」活動に注力するようになる感じです。
成長戦略
最後に成長戦略について考えます。 本書では国家レベルでどうやって人材を育成していくかについて描かれています。 納得させられる一方で、今まさに社会で働く社会人がやるべきことについて考えてみたいと思います。
立ち位置を考える
先に書いたように、人間らしい高度な理解・判断が必要になるため、今後の競争におけるものさしは理解及び判断になると思います。 ただ、本当にそれがすべてかというとそうでもないかもしれません。
過去にも、産業革命時に機械は大幅に生産性を向上させましたが、機械を作るという仕事は今でも残っています。 それと同じで、AIが生産性を大きく変えるトリガーになったとしても、そのAIやその周辺の仕組みを作り上げるのは、まだまだ人間の役割になりそうです。
エンジニアとしては、AIが出てこようが何しようが、「良いサービスを設計・構築」することには変わらないですね。 その他の方々にとっては、自分の業務が大幅に変わる可能性もあるので、AIを使ったビジネスで考えた時に、いかに高度な判断ができるかを磨いていくしかなさそうです。
できなかったことができる様になった
悲観するだけでなく、面白いこともたくさんあります。 AIが出てくることで、これまでできなかったことが安価でできるようになっていきます。
それらは、昔のように職人の業は必ずしも必要ない場合もあり、それらを使うことでこれまでにないサービスを作り出せるチャンスかもしれません。 そういった、観点を持ってサービスを作り出すある種経営者的な能力が、今後重視されていくのかもしれません。 こうした市場が広がっているのは意識しておいて損はないかもしれません。
感想
本自体は、著者が元コンサルタントなだけあって、客観的データを引用しつつ話が展開されているのが印象的でした。 なかなか関わりのない国家レベルの俯瞰した視点からの話でもあったので、現在の日本が置かれた現状を知るのには非常に良いと感じました。
非常にボリュームが多いですが、GWに読むにはもってこいかと思います。 非常に考えさせられる内容となっていますので、ご興味ある方は読んでみてはいかがでしょうか?
シン・ニホン AI×データ時代における日本の再生と人材育成 (NewsPicksパブリッシング)
- 作者:安宅和人
- 発売日: 2020/02/20
- メディア: 単行本