先日わけあってこちらの本をいただきました。
スモール・リーダーシップ チームを育てながらゴールに導く「協調型」リーダー
- 作者:和智 右桂
- 発売日: 2017/09/13
- メディア: Kindle版
前々から読んでみたいと思っており、良い機会だったので読んでみました。 今回は読んでみて感じたこと・考えたことに関するメモです。
tl;dr;
- リーダーシップとは、組織の生産性を最大化することを目的として、組織のビジョンを明確にし目標達成に導く能力と考える
- 目標達成のためには良いチームである必要がある。良いチームとは、個々人の得意不得意・嗜好を踏まえて1+1が2以上になる状態を指す
- 組織の生産性を高めるために、リーダーシップとして求められる行動が多数ある
- チーム運営の基本的な運営の仕組みを定義する
- 計画を立て、その方針をチームで共有する
- 計画と進捗をモニタリングし、進行を阻害する要因をいち早く察知し取り除くように努める
- 議論をファシリテートし、会議を通じて理解を促進しチームの生産性を最大化するように努める
- 問題の構造を整理し、問題の真因を解決するために奔走する
背景
多くの企業でマネジメントを行う責任を負っている人は、必ずしも経営学部マネジメント学科の学位やそれに準ずる教育を受けたわけではないと思います。 そういった人は、ジュニアの職階の職責を十分に達成しただけであって、マネジメントに対して全く知識を持たないままなぜかジュニアからマネージャーに昇格してしまったケースがほとんどかと思います。 そして、過去の経験と他のマネージャーの見様見真似でマネジメントらしきなにかを雰囲気でやっている人も実は多いのではないでしょうか。
マネジメントには、マネジメントをうまくやるための技術が確実に存在します。 チームの成果に対して責任を負う役職の人こそ、精神論や経験ではなく知識で組織運営を良くしていくことが求められていたりします。 よくこうした組織の成果に対して責任を負う立場の人間をリーダーと呼び、その人の能力をリーダーシップと呼んでいたりします。 今回は、このリーダーシップの具体的な中身について明らかにし、明日からどう振る舞えば良いか自分なりに整理したいと思います。
リーダーシップって、なんだ?
まずは、リーダーシップとはなにかという点について考えてみます。
リーダーシップ(英語: leadership)とは、指導者としての資質・能力・力量・統率力。 リーダーシップ - Wikipedia
リーダーシップは規模の大小はあれど、組織に対して用いられる概念です。 組織のビジョンを明確にして目標達成に向かって導く能力であり、一般には組織の生産性を最大化するための行動と捉えられているようです。
そう考えると、リーダーシップの優劣は組織の成果・状態で評価されるはずであり、組織の生産性を最大化するための取り組みこそがリーダーシップの評価対象となると考えられます。 リーダーに求められることは、チームの状態を健全に保ち、高い生産性をキープすることにあると考えられます。
良くないチームの兆候
ここでは組織の規模を数人のチームとして考えて話を進めます。
あるべき理想的なチーム状況を確認するまえに、ありがちな「良くないチームの状況」について、本書で触れられています。
- 一部のメンバーへの過負荷
- 表面的なコミュニケーション
- 限定的で決まりきった仕事 スモール・リーダーシップ
チームを育てながらゴールに導く「協調型」リーダー
この状況は、一見すると少数の優秀社員によって、チームが引っ張られているように見え、彼らは非常に早く仕事をこなすことができるため彼らに仕事が集中します。 また、チームメンバー間での相乗効果が生まれず、1+1が2以上になっていきません。
チームのあるべき姿
では逆に、チームの理想的な状態はどう考えるべきでしょうか? 本書では、メンバーが主体的に行動している状態をあるべき姿としているようです。
よく新卒研修などの現場でも、「主体的に動きなさい」なんて言うのを耳にしたりしますが、本書と目指すところは同じのようです。
チームのメンバーが主体的に行動が出来ている場合には、メンバーはそれぞれが持つ能力を十分に発揮しようとしていると考えられ、頑張りの方向性が間違っていない限りチームの生産性は非常に高い水準になっていると考えられます。 このような「リーダーがいなくても回る状態」を作り出すことが、リーダーシップの最終的なゴールとなります。
1+1が2以上になるメカニズム
組織の生産性を最大化することがリーダーシップの目的だとして話を進めてきました。 そして、あるべき状態として、主体的に行動できる状態だと考えました。
だめなチーム状態では、一部の出来るメンバーがタスクを処理しており、最も生産コストが少ない人がタスクを担当するように考えるとこんな感じになります。
ここで1+1=2となる状態を定義します。
すべてのプレーヤーが全員同じ能力であるということが前提にあり、単純に人数を増やすと人数が増えただけ線形に生産性が向上すると考えています。
しかし実際には、メンバー個々人の得意不得意や嗜好によって生産性や効率は変わったりします。 最後に考えるのは、1+1が2を超えるモデルです。
メンバー個々人の得意不得意や嗜好を踏まえて、それぞれの生産性をうまく最大化していくことで、平均値の人数倍した生産性よりも大きな生産性を出来ると考えるモデルです。(この場合、個々人の生産性平均は最初のケースより劣るが、最終的な生産性は勝っている)
このように、人間には多かれ少なかれ得意不得意が存在し、そうしたところをうまく考慮できればチーム全体の生産性は非常に向上するため、多様な人材がいるチームにはそれだけの可能性があるということになります。
この理屈を踏まえると、チームの生産性を最大化することはリーダーの果たすべき役割であり、リーダーシップについて考えると1+1が2を超えるような状態を維持することを目標に行動することが求められると考えられます。
取るべきプロセス
リーダーシップの中身と目指すところがわかったところで、リーダーシップを果たすために具体的に何をしたら良いかを考えていきます。
リーダーシップを果たすために求められることは、だいたいこんなもんだと思います。
- 運営の仕組みを定める
- 計画を作る
- 実績を監視する
- 議論する
- 問題を解決する
多少漏れはあると思いますが、大枠は上記のような項目になると思っていて、これについて確認してみたいと思います。
運営の仕組みを定める
まずはじめに、組織運営の基本方針を定めます。
メンバーの役割はなにか、コミュニケーションの頻度や形式はどうするか、アウトプットの品質など、曖昧になりがちのことを明確にします。 こうすることで、各人の作業に対する責任を明確にし、ごまかしがきかないように務める必要があります。
個人的には、こういった役割やプロセス中心の会議の設定ははじめに設定してしまえばあとはうまく回る気がしています。 おそらく細かい運営については、こちらの書籍のほうが詳しく書いてある気がします。
計画を作る
組織運営の土台となる運営の仕組みを定めたら、本題に入ります。 チームの目指すゴールを定め、それをメンバー内に共有し、そこに至るためのマイルストーンやステップといった計画を定めましょう。 ここには、時間的な問題だけではなく、組織的なステークホルダーの明らかにしたり、タスク間の依存関係や優先順位を明確にすることも含まれます。
まずチームが目指すゴールとその完了条件を定義します。 次に、ゴールへたどり着くために必要なステップを書き出します。
ポイントは、計画の共有の仕方です。 計画には、抽象度が高い順に、
- 目的
- 目標
- マイルストーン
- 手順
があります。
ポイントはリーダーだけでこれらの計画すべてを決めようとしないことです。 これらのうち手順だけを共有しようものなら、目的や目標の整合性・歪みに対してメンバーからの意見は吸い上げられず、また計画に対する理解も浅くなってしまい、主体性に対して悪影響を及ぼします。
メンバーとの信頼関係を構築する意味でも、まずリーダーが考えたものをメンバーに提示し、メンバーから意見をもらうやり方が効果的だと考えられます。
実績をモニタリングする
計画を建てるだけでは、チームの運営はまだ半分です。 大事なのは、計画に対して実績をモニタリングすることです。 そしてリーダーの大事な役目として、予実管理する指標を定め、それを定期的にモニタリングしていくことが考えられます。
一般的には、進捗管理はガントチャートを活用することが多いと思います。 アジャイル・スクラム等を採用している場合は、バーンダウン・バーンアップチャートで進捗を確認しているかもしれません。 大事なのは、どのようなツールを使用しているかではなく、状況を正しく把握でき・都度発生する問題にタイムリーに対処できているかだと思います。
計画通りに進まない問題として、
- タスクが完了できない
- 計画が間違っている
の大きく2種類に分けられると思います。 リーダーは、これらの問題にも対処していかなければなりません。
タスクが完了できないのであれば、タスク完了できない原因を取り除かなければなりません。 計画が間違っている場合には、そのまま進むのは非常に危険なので、一度立ち止まって計画を作り直すことが必要になります。
また、進捗と同時にチームの状態も同時に気を配らなければなりません。 計画が頻繁に書き換えられていないか、メンバーの報告が曖昧になっていないか、虚偽の報告がなされていないかなど、進捗を確認すると同時に将来の危険信号を察知することも求められたりします。
リーダーシップとして求められるのは、進捗が悪いのときに担当者の尻を叩くのではなく、メンバーの進捗を阻害する要因を取り除くことであり、そうした危険信号を察知するためにも、進捗をモニタリングすることはリーダーシップに求められることになります。
議論する
組織で行動していれば会議・ミーティングは頻繁に行われるかと思います。 その議論を効率よく運営することは、組織の生産性を左右する重要な活動だと思います。
会議や会議を通じて業務で高い生産性を達成するためには、議論の中でメンバーが議論の対象について深く理解し、議論のゴールを達成することが必要になります。 そして、そのためにリーダーが会議において果たすべき役割はファシリテーターとして議論の生産性を最大化することになります。
本書では、議論の具体化や図解などのテクニックが紹介されています。 この辺は一般的なファシリテーションのテクニックかと思いますので、会議の作法に則ってアジェンダを示し、タイムキーパーを設定して、ゴールに向かって議論を整理し、会議の記録を残していく、といったような普通のファシリテーション能力が活用できます。
また、意見が対立した際には、それぞれの意見について理解を深める必要があるかもしれません。 リーダーシップは、独裁者のための能力ではありません。 対立する意見から、異なる立場の考えを整理し、見落としてしまっていたポイントを見つけ出すことも、議論においては必要なことです。 そのため、多様性を重視し、意見に対する理解を深める活動を率先して行うのもリーダーシップのうちの一つと考えられます。
問題を解決する
チームとしての活動しているときに、なんの問題も発生しなければ上記の役割だけで事足りるかと思います。 しかし、実際には多かれ少なかれ、問題・トラブルはつきもので、それは組織の生産性を低下させる要因となりうるため、問題解決はリーダーシップに求められることの一部と考えられます。
では、具体的に問題を解決するとはどういうフローを考えないといけないのでしょうか? この手の話には、問題の構造を理解することから始まります。 顕在化している問題には直接的な原因が存在し、そしてそれはなにか別の真因によって誘発されているかもしれません。 こうした問題の構造を整理し、真因に対して対応策を取ることが、問題を解決するという作業の中身になります。
進捗が遅れている場合には、表面的には単に人を増やすというアプローチに走りがちですが、遅れている真因を潰すほうがずっと大事です。 そして、この真因は自分の組織内部だけの話にとどまらないこともあり、リーダーは別の組織との間に発生している問題の真因に立ち向かっていくことも求められたりします。
感想
この本では、こうしたマネジメントの技術を、目指すチームの状態とそこに至るためのテクニックが書かれているように思います。 最近マネージャーに上がった方、これからマネージャーに上がる準備をしようと思っている方には、非常に有効な内容が記載されている気がします。 量もコンパクトにまとまっているので、気楽に読める気がします。
正直、勘と経験に頼ったやり方が横行しているのが実際だと思います。 テクニックを知りたくとも教わりたくとも、周りも結局勘と経験に頼ったやり方をしているので再現性がなく、苦労しているのことが多いかと思います。 そうしたときに、どう進めて行けばよいかのフレームがあるだけで気が楽になったりします。 そうしたテクニック的な部分を見に付けていくのが必要だなと感じました。
あと、個人的に好きな言葉が書いてあったのでメモっときます。
早く行きたければ一人で、遠くへ行きたければみんなで
本当に、これはそうだと感じます。どんなに優秀な人でも、一人で出来ることには限界があります。 だからこそ、たくさんの人と力を合わせて、一人では絶対にできないことが出来るのがチームワークの面白さだなと感じました。
非常に勉強になりました。