どこにでもいるSEの備忘録

たぶん動くと思うからリリースしようぜ

新規事業推進に関するメモ

昨年からプロダクトマネジメント・チームマネジメント関連でいろんな本を読んでいましたが、そのたびにこちらの本が引用されてました。

リーン・スタートアップ

リーン・スタートアップ

がつくほど有名な本ですがなんとなくでしか内容知らないので、このタイミングでちゃんと読んでみたいと思い勉強してみます。

今回は、新規事業を行う際に必要な体制であったり推進の手法について考えてみたいと思います。

tl;dr;

  • 新規事業は統計的には失敗して当たり前
    • その失敗を回避して事業を成功させるため手法がリーン・スタートアップ
  • 事業を行う上で大きく2軸について考える
    • 価値あることを発見する
      • 仮説に基づいて、作って、試す
      • これを精度良く行うことが価値探索の肝
    • 事業を効率よく遂行する基盤を整備する
      • 上記を遂行する上でのサイクルの効率をあげることも競争優位性のために求められる

現状と理想を把握する

新規事業って実際どれくらい成功してるの?

こちらの記事によれば、新規事業の成功確率は約3~5割程度、見方によっては明確な成功といえるのは1割程度という厳しい状況のようです。

unlk.jp

勝率5割ならまだしも、勝率1割と考えると、基本的に新規事業は失敗して当たり前です。 スタートアップ企業なんて一部の成功の裏で、山のように敗れ去った企業が人知れず無くなってますしね。

また、会社自体の存続に話を広げて考えると、下記の記事を参考にすると、統計上では10年生き残る企業は6%ほどだそうです。

yes-hero.com

10年後には9割の企業が何かしらの形で市場から姿を消すという状況にいるわけで、そんな中で新規事業を成功させようということがいかに大変かおわかりいただけるかと思います。

次に新規事業が立ち上がって生き残っていくまでの段階について考えます。 新規事業が安定して世の中に価値を提供し続けられるようになるために、だいたい次のようなフェーズで語られることが多いです。

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minamisouken.themedia.jp

このように、なにかの技術を軸に新規事業を始めようとしても、それを製品化したり、経営資源の調達、市場の競争に 勝っていく必要があり、いくつもの局面を乗り越えて初めてプロダクトは成功と言えるわけです

失敗する場合には、技術を製品化に繋げられなかったり、経営資源が枯渇したり、競争に勝てなかったりするわけで、単に優れた技術だけでは新規事業は成功しないということがわかります。

アントレプレナーとはなにか

上記のような、失敗して当たり前の新規事業をなんとかして成功に導こうとする人を、本書ではアントレプレナーと呼んでいるようです。

アントレプレナーという単語についてWebで検索するとこのような定義が見つかるかと思います。

とてつもなく不確実な状態で新しい製品や事業を生み出そうとする者は、全員がアントレプレナーなのだ。 リーン・スタートアップ

企業の規模に関わらず新規事業の不確実性に立ち向かう人のことをアントレプレナーと定義しています。 そして、今回の本は、このアントレプレナーに向けた本だと言うことがわかります。

じゃあどうやって進めれば良いの?

問題整理

さて、背景となる情報を整理したところで、今度は何が問題なのかを考えます。 問題となっているのは要するに、

  • 顧客が欲しい物がわからない

という点に尽きます。 どれだけ優れた技術を持っていても、それを顧客にとっての価値に変換できなければプロダクトとしては成功できません。 また、顧客自身もどんなものがほしいのか自覚していないことが多く、供給側は明確な設計図を持つことは難しいです。

考え方の根っこにあるもの

リーン・スタートアップの考えの根っこにあるのは、アジャイル開発などにも通じる「学びを重要視する」という考え方です。 問題提議に即して考えると、

何が欲しいかわからないから、仮説をもとに実験し、顧客の反応を見て進むべき方向を修正する

というやり方を取ることで、徐々に欲しい物を明確にしていく手法です。 このようなやり方は未知の領域に参入する新規事業の際にも有効と考えられます。

リーンスタートアップの考え方に則って新規事業の進める場合、事業の進みの良し悪しを判断する上で考えなければいけない軸として、大きく2軸があると思います。

  • 顧客にとって価値のあるプロダクトを発見する
  • 成長を加速させる"環境"を作る

1つ目は、プロダクトを作り上げる上で価値のあるタスクを素早く発見し、価値の有無を素早く判断していくことを表します。 これには仮説検証のプロセスを用いて「学び」を得て、それに基づいて方向を修正します。

2つ目は、上記の取り組みをより効率よくサイクルさせることを表します。 1つ目を取り組むだけでは不十分で、そのサイクルを早く回していかないと十分な価値を持つプロダクトを作る前に資金が尽きてしまいかねません。

これらを適用することで日々発生する問題点をより効率よく解決していき、他社の追随を許さない競争優位性を構築していくのがリーンスタートアップの大枠の概要となります。

顧客にとって価値のあるプロダクトを発見する

プロダクトの価値があるかどうかを判断するためには、机上でいくら市場調査を行っても正確にはわかりません。 それどころか、膨大な時間を要して行った市場調査の結果と異なり、プロダクトの価値を探索した結果「価値がない」という結果になったら目も当てられません。

リーン・スタートアップを始めとする多くの手法でこの不確実性を許容し、実験を行って不確実性を潰し込んでいくことで、価値あるプロダクトを探索することが良しとされています。 その場合の手順としては、次のような形で進めることになるかと思います。

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仮説を作る

事業を起こしていくということは、ほとんどの場合で課題解決をすることなります。 事業を起こすことが課題解決に紐付かない場合には投資判断として見直す必要があると考えたほうが良いと思います。

課題解決というと難しく聞こえるかもしれませんが、エンジニア的に言うとエレベーターピッチを描く必要がでてきます。 これを埋めようとすると、

  • 解きたい問題は何か
  • ユーザーは誰か
  • 売りにするポイントはなにか
  • 競合はなにか

といった問に、"正確に"答える必要があります。 これが間違っているといくら良いプロダクトを作ったとしても、ユーザーからは受け入れられません。

これらの問の回答を定める上で仮説が必要になってきます。 この場合の仮説は市場調査"だけ"によるものではなく、実体験に基づいた"筋の良い"仮説である必要があります。

  • ユーザーはこの製品を正しく使ってくれる(だろう)
  • ユーザーはこの製品に対してお金を払ってくれる(だろう)

など、市場調査だけでは得られない小さな仮説が発生します。 そのため、何らかの方法で検証を行い、実体験をもとにこれらの仮説が正しいかを確認して進めていく必要があります。

価値仮説と成長仮説

本書でも登場するのですが、開発を行うにあたりポイントになる仮説が2つあります。価値仮説と成長仮説です。

  • 価値仮説
    • 顧客が使うようになった時、製品やサービスが本当に価値を提供できるか否かを判断するもの。プロダクトやサービスがユーザーにとってどのような価値となっているかについての仮説。
  • 成長仮説
    • 新しい顧客が製品やサービスをどう捉えるかを判断するもの。プロダクトやサービスがどのようにして広がっていくかについての仮説。

これら2つは、アントレプレナーにとって事業の根幹に当たる特に重要な仮説となる場合が多いため、特に入念に確認し続けなければなりません。

プロダクトの価値を判断する価値仮説では、何が価値なのか、どんな方向にユーザーの求めているものがあるのかを予想し、実際にこれに基づいてMVPを作っていきます。 加えて、そのプロダクト・サービスがどうやってマーケットに浸透していくかについての仮説を同時に確認する必要があります。 プロダクトは価値があるだけではだめで、それが自律的に成長するように仕向ける必要があり、プロダクトのマーケティング戦略を同時に予想・検証していく必要があります。

作る、ただし最低限で

実際に開発に携わる身としてはこのあたりがかなり悩ましいのですが、仮説を検証するためには何かしらの形で実験をする必要があります。 そして、実験を行うためにはユーザーが体験できるレベルでプロダクトを形にする必要があります。

この際の大前提として、

ユーザーは自分が何がほしいか自覚していない

という点です。 なので、ユーザーに対して直接何がほしいかを尋ねる(ヒアリングする)ことは、はっきり言ってほとんど意味がない場合がほとんどです。 そのため、何かしらユーザーが体験してそれを評価できるレベルまでプロダクトを具体化し、それについての評価を確認することでしか、仮説の裏付けとなる情報を得ることは出来ません。

一方でこれはあくまで仮説の検証です。 そのため、大掛かりな開発をした結果、仮説が間違っていたというケースも十分に考えられます。

このように、開発は必要なんだけれど仮説が間違っていて後で無駄になってしまう可能性がある、という点が非常に難しい点です。 そのため、通常はMVP(Minimal Viable Product)*1を定義し、それを使って価値を確認します。

この点に関しては、inspiredで紹介されているプロトタイピングについても書かれていますが

実際にものを作るよりコストを最低でも1桁小さく済ませる

という点がポイントだと思ってます。

www.nogawanogawa.work

通常工数を1桁削ることを考えると、ちょっとやそっとの努力ではどうにもなりません。 そのため、一見するとトリッキーなやり方で価値の検証を行うしかなくなります。

本書で紹介されていたのは、

  • 動画型MVP
  • コンシェルジュ型MVP

でした。内容は本書を読んで確認いただきたいですが、どちらも実際に開発するより1桁(場合によっては2桁)程度の工数を削減しながら、価値を検証しています。

検証する

モノがないと検証出来ないので、必要最小限でものを作るという話は上でしました。 はじめに立てた価値仮説・成長仮説が正しいかどうかについて、確認したかどうかではなく、進行中常に確認し続けることが重要になります。 これにより、プロダクト開発において"進んでいる方向が正しいこと"を確認しながら価値が大きくなる方向に舵を切っていくことが求められます。

ここで問題になるのは、作った機能が価値を持っているかを測定することです。 通常、何も考えずにスクラムのような手法で開発を進めてしまうと、リリースごとにしか検証が出来ず、機能が実装することが目的になってしまいます。 しかしこれでは、"実装した機能が本当にユーザーにとっての価値になっているか"という点が不透明なままで進んでしまいます。

本書では、伝統的なアジャイル開発のプラクティスであるカンバンを例にとり、カンバンの最後の段階に検証というステップを入れることでこの問題を回避しています。 また、必ずフィードバックは

  • 行動しやすさ
  • わかりやすさ
  • チェックしやすさ

がポイントだといい、それを見失うと正しく価値を高める方向に進んでいるかを見失ったり、順調に進んでいるように取り繕ったりしてしまい、本当の意味での成功とは違うようになってしまうことになります。

ピボット

検証の結果を踏まえ、場合によっては方針を転換(ピボット)する必要がでてきます。 このときの判断が事業の行く末を左右していくと言って過言ではありません。

個人的には、どうピボットするかではなく、何を基準にピボットするかが非常に重要だと感じています。 これまで紹介したように、仮説に基づいてプロダクトを成長させ、それらを検証していくことでプロダクトが正しく成長できているかを確認していくことが望ましいです。

この時ポイントになるのは、作り込まれた検証のプロセスとその結果をシビアに判断していくことです。

事業で価値だと仮定した部分は正しくユーザーに受け入れられているか?その結果として外部に変化が発生しているか? 成長仮説は正しく機能し、想定したとおりにユーザーの反応が数字に現れているか?

ユーザー数や売上が増加しているからと言って、価値仮説や成長仮説が正しい保証にはなりません。 正しく構築された仮説のモデルと現実の差分は、仮説が間違っていることを意味します。 この定量的な差分と、ユーザーの定性情報から仮説を見直し、軌道を修正・ピボットしていく必要があるのです。

成長を加速させる"環境"を作る

サイクル速度

「顧客にとって価値のあるプロダクトを発見する」では、価値を高めるためにはどのような流れを取るべきかを考えました。 それに加えて、スタートアップから大企業まで、事情は違えど「価値を高めるのには時間制限がある」点は意識しなければいけない点でしょう。

事業の根幹には、価値仮説や成長仮説が明確に存在すべきであり、それを検証しながら事業が正しく進んでいるかを確認し、仮説の修正とアクションの軌道修正を行っていくのが、価値あるプロダクトを発見する上での考え方でした。 リーン・スタートアップの手法に則って考えるならば、このようなサイクルを回して仮説 を確認する必要があります。

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このとき、仮説が正しかったかどうかは検証するまでわかりません。 上記のサイクルに時間がかかると、誤った方向に進んでいても確認できず、仮説の誤りが判明したときには大きなロスを生んでしまいます。

そのため、可能な限りこのサイクルの速度は早く頻繁に行うべきです。 実装や生産計画の規模を縮小し、なるべくリリースのサイズを小さくする努力が考えられる一方、ハード面でもこのサイクル速度を上げる取り組みは考えられます。 このような、サイクルの速度向上に関しても合わせて行っていくことがもとめられます。

リーンスタートアップと戦略

リーンスタートアップは比較的初期の段階の事業であれば非常に有効に機能すると思います。 しかし、ダーウィンの海のような点を考えると、これだけではうまく行かない可能性が出てきます。

下記によれば、リーンスタートアップのようなボトムアップ型の手法だけでは難しい側面があるようです。

  • 時間・リソースは有限で、取りうるピボットの回数には限界がある
  • 場合によっては検証を行うよりも「投資」が必要になることもある
  • 検証は長期的な影響を考慮できない場合が多く、それを踏まえた考察が難しい

など、リーンスタートアップに加えて、企業として方針レベルの戦略を示し、選択肢の幅を狭め、リソースの投下戦略を定めていくことが必要になってきます。

一見するとリーンスタートアップの手法は、旧来の事業計画に基づく経営手法とは相容れないように見えますが、実際にはこれらを高度に連携させていく必要があります。

感想

読んでいて、過去に読んでいたアジャイル開発に関する考え方やプロダクトマネジメントに関する考え方を今までとは別の切り口で語っている感じがして、非常に面白かったです。

とくに強調されていた点としては、「学び」というものを重視している点だと思います。 アジャイルその他開発手法でもそうですが、様々な場面で不確実性に対して「学び」による一次情報によって事業の舵取りを行う点が特に強調されていました。

その他、他の書籍とも共通していることとしては、顧客にとっての価値を素早く発見していくことが生命線だという点でしょうか。 本書は最近のマネジメントに関する書籍でよく引用されているくらい有名な本なので、また機会があれば読み直したいと思います。

リーン・スタートアップ

リーン・スタートアップ

*1:おそらく本書でいうMVPと一般的にアジャイル開発でいうところのMVPは異なるような気がします。通常は最低限度の機能を持った”プロダクト”である必要がありますが、本書では”価値を測定できるなにか”というニュアンスを持っているようです。