人材版伊藤レポートという文書が経済産業省から出されています。
別件でこの辺りを調べていたので、頭の整理がてら考えたことをまとめていきたいと思います。
tl;dr;
ざっくりまとめると多分こんな感じですかね。
- 人材版伊藤レポートとは?
- これからの企業経営における「人的資本」「人的資本経営」についての考え方と取り組むべきことをまとめたレポート
- 想定対象者
- (主には)企業経営者やCHRO、及びそれに関係する役職の人
- 人事系のコンサルティング等に関わる人
- 採用・タレントマネジメント等に関わる人
- 問題意識
- 近年では企業価値の主要な決定因子が有形資産から無形資産に移行しつつある
- 無形資産の代表格である人的資本の価値を最大限引き出す方向に創造的かつ柔軟に変われるかが企業競争力につながる
- 経営戦略に人材戦略を紐付けることが重要になってくるが、現在これを効果的にできていないケースが多い
- こうした変革を促進する観点からも社会全体の人財の流動化や、多様な働き方を選択できるルール整備等が求められている
- 近年では企業価値の主要な決定因子が有形資産から無形資産に移行しつつある
- 変革の方向性
- 従来の人事部主体の人事施策を進める形から、経営層主導で持続的な企業価値の向上につながる人材戦略を推進するべき
- 取締役会では経営戦略の実現可能性という観点から経営戦略と連動した人材戦略が推進されているか監視・モニタリングするべき
- 投資家は、中長期的視点で人材戦略を踏まえた対話・投資先の選定が行われるべき
- 人材戦略における視点と共通要素
- 人材戦略について3つの視点と5つの共通要素について意識しながら具体の戦略・アクション・KPIを考えることが有効
- 3つの視点
- 経営戦略と人材戦略の連動
- As Is - To Be ギャップの定量把握
- 企業文化への定着
- 5つの共通要素
- 動的な人材ポートフォリオ
- 知・経験のD&I
- リスキル・学び直し
- 従業員エンゲージメント
- 時間や場所にとらわれない働き方
詳しく知りたい人はぜひレポートの原文をあたってください。以下は自分用にまとめていきます。
人材版伊藤レポートとは
「人材版伊藤レポート」と呼ばれる文書には、2023年3月現在で2つの文書が出されているようです。
- 人材版伊藤レポート
- 2020 年9月発表
- 人材版伊藤レポート 2.0
- 2022 年5月発表
人材版伊藤レポート
本報告書は、企業の競争力の源泉が人材となっている中、人材の「材」は「財」であるという認識の下、持続的な企業価値の向上と「人的資本(Human Capital)」について議論したものである。 https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/kigyo_kachi_kojo/pdf/20200930_1.pdfより
企業経営における人的資本の考え方と、それに関する人材戦略の方向性が提言されたレポートです。
人材版伊藤レポート 2.0
本報告書は、「人材版伊藤レポート」が示した内容を更に深掘り・高度化し、特に「3つの視点・5つの共通要素」という枠組みに基づいて、それぞれの視点や共通要素を人的資本経営で具体化させようとする際に、実行に移すべき取組、及びその取組を進める上でのポイントや有効となる工夫を示すものである。 https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/pdf/report2.0.pdf より
要旨は変わりませんが、2.0ではより突っ込んだ具体例中心に記載されたものになっています。
視点
あくまで経営者・取締役・投資家の視点で進むべき一つの方向性を示したものになっています。
個人的な所感ではありますが、人事系のコンサルティングに関わる人は知っていることなのかなと思いました。 また、人的資本経営には人事・採用が当然絡んできますので、そういったシステムやサービスに関わる人も、知っとくと良いのかな?くらいには思いました。
背景
有形資産から無形資産がより重要視される
米国 S&P500 の市場価 値の中で、有形資産が占める割合が年々少なくなっているとともに、 1990 年代後半から米国企業における無形資産への投資額(付加価値総額に 占める割合)が有形資産への投資額を上回り、その差が広がっている。 https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/pdf/report2.0.pdf より
昔は、工場などの有形資産が競争優位性の中心と考えられていましたが、現在では人材や人材戦略がより重要視されているようです。 人材の確保・育成やイノベーションを起こせる環境整備といった人材戦略が求められる世の中になってきているようです。
実際には、諸外国に比べて日本では人材戦略を中心的に推進していくべき人事部が、価値提供部門ではなく管理部門として捉えられている模様で、このあたりの意識にもギャップがあるようです。
経営戦略に人材戦略を紐付けが難しい
多額の人材投資や先進的な人事制度の導入も、その人材投資や人事制 度が自社のビジネスモデルや経営戦略と連動し、適切に位置づけられ ていなければ企業価値の向上にはつながらない。 https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/pdf/report2.0.pdf より
ビジネスモデルや経営戦略の方向性も変わっていく中で人材戦略がそれに連動するのが理想の状態です。 ただ、実際には人材戦略と連動できていないケースが多いようです。
ここにも、現在の企業経営における課題があると指摘されています。
変革の方向性
企業経営やそれを取り巻く人々はどのように変革していく必要があるかについて
- 経営者
- 取締役会
- 投資家
の視点でも語られています。
経営者:持続的な企業価値の向上につながる人材戦略を推進
経営陣のイニシアティブでこうした状況を打破し、持続的な企業価値の向上につながる人材戦略を再構築する必要がある。その際、人材や資金、技術・情報に関する戦略がバラバラに策定・実行されるのではなく、一元的に策定・実行されるよう経営陣のコアメンバー(CEO(最高経営責任者:Chief Executive Officer)/CSO(最高経営戦略責任者:Chief Strategy Officer)/CHRO(最高人事責任者:Chief Human Resource Officer)/CFO(最高財務責任者:Chief Financial Officer)/CDO(最高デジタル責任者:Chief Digital Officer))が密接に連携する必要がある。特に、CHROは、経営陣の一員として、経営戦略の実現につながる人材戦略の策定・実行に重要な役割を果たす存在となりうる。 https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/pdf/report2.0.pdf より
従来のように人事部だけで行うのではなく、経営層主導で経営戦略の実現につながるように人材戦略を策定・推進して行くことが求められているようです。
また、従業員や投資家などに対しても人材戦略について積極的にコミュニケーションを図ったり、採用等についても見直していくことが期待されているようです。
取締役会:経営戦略と連動した人材戦略が推進されているか監視・モニタリング
取締役会は、経営陣が策定した人材戦略が経営戦略と連動しているのか、企業価値の向上につながるのかを確認した上で承認を行うべきである。 https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/pdf/report2.0.pdf より
取締役会は、人材戦略の策定時だけでなく、定期的に人材戦略の実行状況について議論を行い、KPI を用いながら監督・モニタリングを行うべきである。KPI に設定した指標が現在どういう状態にあり、今後どのように取り組むのか等について経営陣と議論することが必要となる。 https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/pdf/report2.0.pdf より
この辺はあまりわかりませんが、取締役もちゃんと人材戦略を注目してね、って感じみたいです。
投資家:中長期的視点で人材戦略を踏まえた対話・投資先の選定
投資先企業の持続的成長に向け、投資先企業のビジネスモデルや経営戦略の全体像を把握し、その実現可能性を評価すること 11は非常に重要であり、企業価値の向上につながる人材戦略について、企業からの発信・見える化を踏まえて対話、投資先の選定を行うことが求められる。 https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/pdf/report2.0.pdf より
無形資産が企業価値に占めている割合が大きくなっている昨今では、投資家もこの辺りについて建設的に対話していくことが必要みたいですね。 (投資家じゃないので詳しいところはあまりわかってません)
総合すると、下記のような関係性がイメージになるようです。
人材戦略における視点と共通要素
人材戦略を立案・推進していく上でのポイントとして3つの視点と5つの共通要素があると言われています。
3つの視点
経営戦略と人材戦略の連動
経営戦略に紐付いた形で人材戦略も連動されているかが、一つのポイントになります。
As Is - To Be ギャップの定量把握
理想的な状態と実際の状態には当然ギャップが生まれるものなので、この定量把握もポイントになります。
企業文化への定着
企業文化は、所与のものではなく、日々の活動・取組を通じて醸成されるものであり、企業理念、企業の存在意義(パーパス)や持続的な企業価値の向上につながる企業文化を定義し、企業文化への定着に向けて取り組むことが必要である。 https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/pdf/report2.0.pdf より
企業文化への浸透も一つのポイントのようです。
5つの共通要素
動的な人材ポートフォリオ
経営戦略の実現や、ビジネスモデルの変化によって、必要になる人材の質・量は変化する。 それらに対応できるように人材の要件を定義し、人材の獲得・育成を動的に続けるべきとしています。
知・経験のD&I
中長期的な企業価値向上のためには、非連続的なイノベーションを生み出すことが重要であり、その原動力となるのは、多様な個人の掛け合わせである。このため経験や感性、価値観、専門性といった知と経験のダイバーシティを積極的に取り込み、具現化していくことが必要となる。 https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/pdf/report2.0.pdf より
金太郎飴みたいなのを目指すのではなく、ダイバーシティに取り組むことがイノベーションにつながるということでしょうか。
リスキル・学び直し
事業環境の急速な変化、個人の価値観の多様化に対応するためにも、個人のリスキル・スキルシフトの促進、専門性の向上が必要となる。この際、個人が自らのキャリアを見据え、学び直しに取り組むことができるよう、企業としても、個人の自律的なキャリア構築を支援することが重要である。 https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/pdf/report2.0.pdf より
リスキリングも重要みたいです。
従業員エンゲージメント
従業員 エンゲージメントとは、「企業が目指す姿や方向性を、従業員が理解・ 共感し、その達成に向けて自発的に貢献しようという意識を持ってい ること」を指す。 https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/pdf/report2.0.pdf より
また、出社を基本とする就業条件や画一的なキャリアパス、年次別の研修ではなく、兼業・副業、在宅勤務などの多様で柔軟な就業環境の整備、社内外を含めた多様なキャリアパス等の魅力的な就業経験や機会(EX)の提供、意欲ある個人に対する幅広い教育訓練コンテンツの提供等、多様な個人一人ひとりに向き合い、価値創造を最大化することが求められる。 https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/pdf/report2.0.pdf より
自発的に行動できる社員を増やすことで価値創造を最大化しましょうってことですかね。
時間や場所にとらわれない働き方
新型コロナウイルス感染症への対応の中でも顕在化したように、いつでも、どこでも、安全かつ安心して働くことができる環境を平時から 整えることが事業継続やレジリエンスの観点からも必要となる。 https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/pdf/report2.0.pdf より
一方で、同じ時間や空間で働いていない多様な個人を束ねていくためには、これまで以上に、マネージャー層のリーダーシップ、マネジメントスキルが、不可欠な要素となる。特に、業務プロセス自体が見えにくくなる中で、タスクのアサインの仕方や育成・評価なども適合させていく必要があり、こうしたマネジメントに対応できるマネージャーの育成や支援が鍵となる。 https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/pdf/report2.0.pdf より
働き方の柔軟さを確保していくことや、そのマネージャーの育成なども必要とのことです。
感想
別件で調べ物してたときに見つけたので読んでみました。 「人的資本」という用語については聞いたことはありましたが、内容についてあまり詳しく知らなかったので勉強になりました。